日本経済新聞 1996.01.25 夕刊 Town Beat ★内臓休ませ治癒力回復★ 断食は古来、宗教的行事として行われてきたが、最近は「医療」として 採用する民間団体が増えてきたという。断食の効用は何なのか。 その間、身体はどう変化するのか。そんな興味を持って静岡県伊東市の 「伊豆健康センターみどり会保養所」を訪ねた。 (フリーライター吉井 妙子) ★断食道場を体験★ 写真1=朝はそろって体操  「あれ、ちょっと見ない間に頗がツヤツヤしちゃって何か若返ったみたい」。 六泊七日の「断食」から帰るなり、マンションの管理人にこう声をかけられた。  年末年始の暴飲暴食がたたり一カ月で三キロも体重が増えた。これを機に 断食にトライしてみようと関係施設を探してみたが意外と少ない。 鹿北大学医学部の心療内科など、数カ所の病院で治療を目的とした断食療法を 行っているものの、私の体験志願に「簡単に考えられては困る」と、何人もの 医師にたしなめられた。 自律神経の働き測定  伊豆高原の高級別荘地の一角にあるみどり会保養所は、自然食を中心と した食事療法と東洋医学を組み合わせた保養施設として七三年に設立された。  到着してすぐ、古賀滋所長(33)の問診と良導絡検査を受ける。 良導絡検査は、身体のツボに電気を流して自律神経の働きを測定し、 心身の状態を知るというもの。「消化器系が大分疲れています。 腸のぜん動運動も弱い。自律神経が極度に緊張していますね」と古賀所長は 私の弱点を次々に指摘していく。  「いい時に来ました。もうちょっと頑張っていたら、腎(じん)系か 消化器系に問題が起きていたでしょう。予防医学の一種である断食は、 内臓を休養させることによって老廃物を体外に排出し、本来その人が 持っている健康を取り戻すことができるんです」  断食期間は利用者のスケジュールによって適宜組まれるが、断食期間と 同じ補食(復食)期間が必要である。私は三日断食三日補食コースを選んだ。 写真2=補食(復食)1日目のメニュー。重湯、野菜スープと梅干し一個 ★自己流には危険も★ 口臭は大掃除の証拠  断食中はイオン水、薬草茶、ビネガー酵母液だけだが、不思議と空腹感がない。 めまい、頭痛、腹痛、吐き気などの断食反応が出ることもあると聞かされて いたが、私の場合はただひたすら眠いだけだった。  もっとも、午前八時半から午後三時まで、整体や針きゅうなどの東洋医学を 習得した古賀所長や大沢剛(30)氏の物理療法をみっちり受けるため、その 心地よさが空腹感を忘れさせたともいえる。物理療法の時間以外は散歩するも よし、読書するもよし。  断食三日日の朝に口臭が気になった。「脂肪が不完全燃焼して発生した ケトン体のせいです。絶食すると一日目は糖分が燃え、三日目あたりから 脂肪がエネルギーに変わる。その結果、体内の老廃物や、脂肪と固く結合して いた農薬などの化学物質が着床を失って体外に排出されるためで、においは 体の大掃除が行われている証拠」と古賀所長。  三臼問の断食が終わり、四日目に補食に入った。重湯、裏ごしした野菜スープ、 梅干し一個というメニューだが、重場のおいしさが体中にしみ渡り梅干しの種を 舌の上で何度も転がす。このころから、起きがけの顔に張りがあるのに気づく。 「飢餓という強烈なショックを受けた体は大変調をきたし、自律神経と内分泌系を 刺激して、人間に本来備わっている自然治癒力を呼び起こしたからです」 (古賀所長)。 表1=主な断食道場 伊豆健康センター みどり会保養所〔静岡県伊東市〕0557(54)0011 五色県民健康道場〔兵庫県五色町〕0799(33)0535 ヒポクラティックサナトリウム〔静岡県伊東市〕0557(44)0161 甲田医院〔大阪府八尾市〕0729(22)5300 ハピネス健康センター〔東京都新宿区〕03(3260)8611 写真3=物理療法も日課のひとつ 食に対する意識変化  体重も減ったが、それ以上の変化は、食に対する意識である。飽食の時代を 享受していた私だが、断食を終え、豊かさの中で忘れていた食べ物のうまさ、 ありがたさを実感し、身も心も引き縮まったようだ。  古賀所長は「忙しいサラリーマンにこそ断食を勧めたい。リフレッシュ休暇に どうですか」と言いつつ「断食は両刃の剣。決して自己流でやらないように」と 強く警告している。 以上