★ケトン体が出てくると五感や・直感力が鋭くなる★  断食には、内臓を休め、老廃物を体外に排出して自然治癒カを高めるなどの 効果があることは、小連載でも何度か紹介してきた(九六年十二月号、九八年 七月号など)。それぞれに断食療法は特徴をもっているが、伊豆健康センター の療法は、故馬淵通夫医師のもとで全国的な健康推進活動をしてきた 「日本みどり会」の考え方をそのまま継承している。  馬淵さんは、現代医療の荒廃を訴えて保険医を辞退し、気(心)、血(食物)、 動(運動)のバランスを整える予防医学をいち早く実践した。そして、その 馬淵さんが「三日断食すれば、食事療法を半年続けたのと同じ効果がある」 という確信のもとで昭和四十八年に開設したのが同センター(旧みどり会 保養所)である。  日本みどり会は昨年解散したが、同センターは昭和五十六年より アイジャパン(株)が運営を引き継いでおり、國田さんは現在の治療責任者だ。  センターの収容人員は三十数名で、現在のスタッフは七人。七泊八日の 断食コースとは別に、多忙な人向けに新しく二泊三日の断食体験コースを 設けるなど独自の取り組みをしている。そのなかで國田さんがとくに 強調するのは、断食を通じての″自分発見″だ。 「断食の身体的な効果もすごいですが、何日間も空腹を抱えて自己と向き合う 体験は、心理的には一種の修行のようなもの。飢餓状態になってケトン体が 出てくれば、精神が研ぎ澄まされていくことは科学的にもわかっています。 断食を通じて自分のなかで燃えている″生命の火″に気づけば、それから の日常生活もガラッと変わるはずです」  ケトン体というのは、断食によってエネルギー源の糖分がなくなったときに、 それに代わって脳に供給される栄養分のこと。このケトン体が出てくると、 気分が爽快になり、味覚、嗅覚などの五感や直感力などが鈍くなる。  マラソンランナーには、ある時点で疲労を感じなくなり、高揚した気分に なる「ランナーズ・ハイ」という現象が起こることが知られているが、 それと同様の「断食ハイ」とでも呼ぶべき現象があるという。  初体験の三日断食くらいでは、その世界をちょっと味わう程度だが、 先の前川さんが、二十分間も海の美しさに見とれていたのも、これに類した 現象らしい。  このはかにも、断食は人間の内面の奥深いところを刺激する力をもって いるようだ。國田さんが目を細めて語るのは、本能に目覚めた何人かの 女性参加者のケースである。  そのうちの一人、K子さん(36)は、カルチャーセンターの講座を コーディネートする仕事のストレスなどでアトピーになり、平成九年四月に 同センターで断食をし、さらに同年七月にも再挑戦した。  これによってアトビーは軽減したが、それ以上にK子さんには大きな 変化が現われた。二回目の断食のあと園田さんにこう告白したという。 「アトビーの治療にきたつもりだったのに、久しぶりに生命が躍動するような 生き生きした気持ちになった。これまで仕事一筋で、結婚も、子どもも いらないと思っていたけど、どういうわけか、結婚して子どもを産みたい、 という気持ちになっちゃった」  ほかにも、これまで数人の女性参加者が同じような感想を語って 帰っていったそうだ。  「断食によって心身ともに自己と向き合ったとき、身体はホルモンや 自律神経のバランスを取り戻し、心も本能的なものを取り戻すんじゃ ないかと思います」と園田さんはいう。  こうした断食の不思議な効用に魅せられる人も多い。